<第16回>2010.4
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P.カザルスの記憶は、高校の視聴覚室で開催していたレコード鑑賞会でドヴォルジャークのチェロ協奏曲を聴いたのが最初であった。SP復刻盤の古い録音であったが、曲の魅力に惹かれた。カザルスについては、後日見た写真が、何か風采のあがらない田舎のおじいさんが丸いめがねをかけてチェロを演奏していて、宮沢賢治をもう少し頑丈にしたような印象を覚えている。数年後に大学に入学してまもなく、同学年のチェロの大先輩?(その方は数年年上)から、カザルスのやはりSP復刻盤でバッハの「無伴奏チェロ組曲」を聴いてみないかと、全曲3枚組を貸してくれた。全6曲の中でも、第5番ハ短調のプレリュードの冒頭の衝撃は、今でも忘れられない。もしこのときにカザルスのレコードに出会えなかったら、音楽を自分の一生の仕事としてやっていたかわからない。 人には、このような出会いが多々あると思うが、この出会いが、多少大げさなようであるが、私の音楽に対する基本理念を形成していくこととなった。 カザルスの97年近い生涯は、チェリストから出発し、作曲・指揮・教育と幅広い音楽活動を通して、人道主義を根底にメッセージを送り続けた。特に二つの世界大戦を経たことは、大きく彼の音楽に影響を及ぼした。特に第二次世界大戦では、祖国スペインが、フランコ独裁政権となり、愛する祖国を去ることとなり戦後もフランコ独裁政権が続き、スペインの民主化はカザルスの死後であったので、スペインに帰ることがなかった。 カザルスは、スペイン・カタロニアの首都バルセロナの小村ヴェンドレルで生まれた。すぐれた音楽家であった父から、オルガン・ヴァイオリン・作曲を習い、8歳でヴァイオリニストとして音楽活動を始めた。さらに11歳の時、チェロをバルセロナの音楽学校で勉強し始め、すぐにその才能を現した。そして、13歳の時にバルセロナの楽器店で偶然に、バッハの無伴奏チェロ組曲に出会う。この出来事は、偶然にしてはあまりにも神がかりのような気がする。カザルス自信この出会いを「生涯の大きな天啓」と言っている。それまで誰も顧みなかったこの曲の価値を少年カザルスは、その場で認めたのだ。その後12年の年月を研究に費やした。その間、国外での研鑽と活動をするが多くの苦労と病気のため1896年には、再び故国に戻る。1899年までバルセロナで活動し、国内にその名声を高める。1899年、23歳でパリに出て活躍し、その名を世界に広めることとなる。1904年には、ホワイトハウスで演奏した。その間、チェロの演奏法を改善し、1904年にバッハの無伴奏チェロ組曲の公開演奏をする。その後第1次世界大戦を経て、1919年に再びバルセロナに戻り、自費を投じてオーケストラ(パウ・カザルス管弦楽団)を結成したり、合唱団を作り指揮者としても活動し、祖国の音楽普及に大きな足跡をのこした。 1 LP 東芝EMI GR 2016〜2018(GRシリーズ) SP盤からの復刻 2 CD 東芝EMI CE 30 -5213〜14 最初の国内CD 1989年 3 CD EMI(英)5 66215 2 art(Abey Road Technology) 1997年 4 CD 東芝EMI TOCE-11567〜68 HS2088 2000年 5 CD NAXOS 8.110915〜16 2000年 6 CD OPUS蔵 OPK 2041〜42 2003年 これら6種は、それぞれ違った音質の印象を持つ。実際にSP盤を聴いていないが、その深く柔らかい響きでSP盤に最も近いと思われるのが、6番のOPUS蔵ではないかと思う。昔家庭用の小型のSP再生装置のイメージだと情報量がかなり少ないように思われるが、すごい装置で聴くと、こんなにもSP盤には、多くの情報が入っているのかと驚くほどである。世界に確か4台しかないという装置を聴いたことがあるが(今の価格で約12,000,000円)、その音の深さ・広がり・暖かさ・柔らかさはには、感動した。(マーラー:交響曲第5番第4楽章Adagietto〜B.ワルター、ワーグナー:トリスタンとイゾルデ 第1幕前奏曲〜W.フルトヴェングラー) SP盤に比べると、LP盤の音は、やや硬質であるが、2番の最初のCDに比べると暖かく深い音である。そして、3番のart は、1番のLPに近い音で自然な感じを持った。4番のハイサンプリング、20bit/88.2kHzのマスタリングは情報量が最初のCDより多いが、少し不自然(強引?)な感じがする。NAXOSのCDは、2番の初CDに近い。10年ほど前の廉価盤で確か2枚組で1200円くらいだったと思う。 そのようなことで、SP盤を彷彿とさせてくれる6番のOPUS蔵がなんと言ってもすばらしと思う。 現在多数のCDが出ている。それらは、Stereo(アナログ)の復刻版からオリジナルのDigital録音のもの、現代楽器、ピリョード楽器、最近ではヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ(shoulder-cello)など様々な演奏を聴くことができて、うれしいことである。その中でこのバッハの名作である「無伴奏チェロ組曲」の出発点が、カザルスの演奏であることは間違いことであると同時に、彼のチェリストとしての偉大な業績である。 |
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オンケン 音楽顧問 伊賀美 哲[いがみ さとる] 国立音楽大学声楽科卒業。波多野靖祐、飯山恵己子諸氏に師事。現在、田口宗明氏に師事。指揮法を故櫻井将喜氏に師事。1982年、第7回ウイーン国際夏季音楽ゼミナールでE.ヴェルバ、H.ツァデック両 教授の指導を受ける。1985年フィンランドのルオコラーティ夏季リート講座で、W.モーア、C.カーリー両教授の指導を受け、その後W・モーア教授にウ イーン、東京で指導を受ける。1986年から毎年、リートリサイタルを開催、シューベルトの歌曲集「冬の旅」、「美しい水車小屋の娘」、「白鳥の歌」、 シューマンの歌曲集「詩人の恋」等を歌う。千葉混声合唱団では、ヘンデル「メサイア」、モーツアルト「レクイエム」、J.S.バッハ「ミサ曲ロ短調」「マタイ受難曲」などを指揮する。現在、千葉混声合唱団、かつらぎフィルハーモニー指揮者。 |